認知症の治療方法
認知症の大きな問題点は適切な治療方法がないことです。アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症を含め、多くの認知症は、発症の仕組みが分かっていないため治療方法も分かっていません。原因が分かっている場合は、その原因を取り除くことによって認知症の治療ができます。例えば、特発性正常圧水頭症による認知症では、脳に溜まった過剰な脳髄液を外に出す手術によって治ることがあります。アルコール依存症によって葉酸が欠乏して起こる認知症では、禁酒や葉酸の補給によって治ることがあります。アルツハイマー病など発症の仕組みが分かっていない認知症のほとんどは、医薬品があっても短期間しか効果がなく、満足できる医療方法がありません。
多くの病気は、発症の仕組みが分からなくとも症状を和らげる方法があります。生活習慣病の糖尿病の場合も、発症原因は分かっておらず根本的に治すことはできませんが、その症状を抑制し、進行を抑制する医療や食改善の方法が行き渡っています。
認知症に満足な医療方法がない理由には、体の状態を保つ神経の役割とも関係しています。神経に働く医薬品は、元の状態に戻そうとする神経の作用によって、短期間しか効果がないことになります。 統合失調症など精神疾患用の医薬品も、神経の作用によって次第に効き目がなくなります。しかし、これらの精神疾患は認知症のような進行性ではないため、いつでも医薬品の使用を止めることができます。認知症の場合は、長期間にわたって進行するため、一時的な抑制効果では意味がありません。また、神経に作用する医薬品は、使い方によっては却って認知症を悪化させることがあります。
認知症の2つ目の問題点は、人としての尊厳に関係する神経作用が障害されることです。人としての尊厳が保たれていれば、どんな状態であっても介護ができます。しかし、認知症になって尊厳が失われると家庭は崩壊し、介護に手間のかかる認知症介護施設の増設も認知症の増加に追い付けません。人としての尊厳が失われることは、本人にとっても重大な問題です。