認知症の検査方法

 認知症の検査は簡単ではありません。記憶力とは言葉で言うことができるため試験で検査する事ができますが、認知機能は言葉でうまく表現できないため認知機能の検査は簡単ではありません。認知機能は、ADAS-cogという心理テストや長谷川式簡易テストなどの結果を参考にして、その人をよく知る人から日常の状態を聞いて、専門者が判断します。
 また、認知機能の検査は、本人の状態や検査する環境や状況に左右されやすいため、定期的に行うことが重要です。なるべく同じ環境で、同じ検査者によって検査した何ヵ月か後の結果と比較して、その進行程度が分かります。

認知症のマーカーがない

 いろいろな病気の検診が国民全体で行われるようになった背景には、マーカー(検査試薬)の発達があります。認知症の検査が行き渡っていない背景には、適切なマーカーがないことにもあります。
 原因たんぱく質が分かっている認知症は多数ありますが、共通して、原因たんぱく質の存在とその認知症との関係が明確ではありません。この理由は、原因たんぱく質の脳内での存在と脳髄液や血中での存在が一致しないこと、脳内でのβアミロイドの存在とアルツハイマー病が必ずしも一致しないこと、頭蓋骨中にあって、体を制御し人の尊厳にも関係する脳から検査試料を取り出すことができないこと、原因たんぱく質の存在だけでなく凝集の仕方も発症に関係していると言われていることが挙げられます。
 アルツハイマー病の場合、原因たんぱく質と考えられているβアミロイドの脳内での存在をアミロイドPETという脳内に集積したβアミロイドを画像化する方法が開発されていますが、脳内のβアミロイドとアルツハイマー病との関係が十分には解明されておらず、この検査の目的は研究用などに限られています。
 レビー小体病とパーキンソン病にはαシヌクレインというたんぱく質が関与していると言われています。βアミロイドもαシヌクレインもそれぞれ別々の神経に重要な働きがありますが、これら全く違うタンパク質は共通して凝集し、その凝集体がそれぞれの認知症の発症に関係すると考えられています。

(認知症の予防方法)

 認知症の治療が難しいため予防が重要と言われています。しかし、原因が分からないことや認知機能の検査が行き渡っていないこともあって、予防方法は明確ではありません。明確でない理由には、認知機能に関係する神経は環境に左右されやすく、長期間にわたって検査する必要があることも挙げられます。
 最近、発症の仕組みがよく分かっていない糖尿病など多くの生活習慣病や認知症などの病気をcommon disease(よくある病気)といい、これらは、環境やライフスタイルの変化に本人の体質が多因子的に関係しているのではないかと言われています。
 どうして認知症になってしまうのか、よく分かっていませんが、生活習慣病と同じように、本人の体質と環境や生活スタイルの変化が複合して発症に関係しているとも考えられえています。最近では、軽い運動が記憶力や認知機能の改善に役立つ可能性が報告されています。
 運動以外にも認知症に関係する因子があるはずです。食事も重要な因子と考えられますが、しかし、どんな食べ物がアルツハイマー病の改善に良いのか悪いのか、よく分かっていません。例えばワインがアルツハイマー病のリスクを低減させると言われていますが、ワインのどんな成分がどのようにして効果を発揮しているのかよく分かっていないのです。ワインに限らず認知症に役立つ方法が喧伝されていますが、いい加減なものも多数あるようです。その多くは、エビデンスがないか乏しいものですが、認知症の予防試験が難しいことも背景にはあります。
 また、認知症の発症に多因子が関係するとしたら、どんな方法でも人によって効果が異なります。ある方法が効果があるということは、その方法を利用した平均値と利用しなかった平均値を比較して、効果があることを証明した場合に言えるのです。効果があることが証明されても、人によってその効果はマチマチです。

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